老人ホームへの入所を検討する際、重要な要素の一つに「入所のタイミング」があります。
特に特別養護老人ホーム(特養)では、3ヶ月ルールという重要な規定があり、これを理解することが入所後の生活を安定させる鍵となります。
本記事では、特養の3ヶ月ルールについて詳しく解説し、入所のタイミングや退所後の対応策までを網羅的に紹介します。
特養(特別養護老人ホーム)の3ヶ月ルールとは
特養の3ヶ月ルールは、入所者が3ヶ月を超える期間入院した場合に契約解除となる規定です。
特養の3ヶ月ルールは運営に関する法律に基づいており、厚生労働省の「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」に由来しています。
「特別養護老人ホームは、入所者について、病院又は診療所に入院する必要が生じた場合であって、入院後おおむね三月以内に退院することが明らかに見込まれるときは、その者及びその家族の希望等を勘案し、必要に応じて適切な便宜を供与するとともに、やむを得ない事情がある場合を除き、退院後再び当該特別養護老人ホームに円滑に入所することができるようにしなければならない。」
出典:厚生労働省:「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」
規定から、3ヶ月以内の入院であれば再入所が保証されますが、3ヶ月を超える入院の場合は再入所の保証がないと解釈されています。
そのため、多くの特養が3ヶ月ルールを採用しているのです。
3ヶ月ルールが適用される状況
特養の3ヶ月ルールが適用されるのは、単に3ヶ月を超える入院だけではありません。
以下のような状況でも適用される可能性があります。
- 入院先の医師が3ヶ月以内の退院は困難と判断した場合
- 3ヶ月以内の退院は可能だが、日常的な医療行為が必要になった場合
特に2つ目のケースは注意が必要です。
特養は医師の常駐が義務付けられていないため、日常的な医療行為に対応できない施設もあります。
日常的な医療行為に対応できない施設の場合、入所者の安全を確保できないとして退所となる可能性があります。
3ヶ月ルールの例外:退所にならないケース
特養の3ヶ月ルールの例外もあります。
例えば、以下のような入所先の特養に起因する長期入院の場合です。
- 職員の過失による介護事故(骨折など)が原因の入院
- 職員の過失による体調悪化(脱水症状など)が原因の入院
上記のようなケースでは、入院先の病院や入所先の特養と事実確認を行い、特養側の責任が明らかな場合は退所を避けられる可能性があります。
しかし、施設によっては「規則だから」という理由で退所勧告を覆さないこともあります。
まずは地域包括支援センターや市区町村の福祉担当窓口、担当のケアマネジャーに相談することをお勧めします。
特養の3ヶ月ルールに関するよくある疑問点
3ヶ月ルールについては、多くの疑問が寄せられています。
- 3ヶ月ルール後の再入所の可能性はある?
- 入院中の特養の費用負担は?
- 3ヶ月以内の退院と再入院の扱いの違いは?
- 入院直後の退所勧告を受けることはある?
3ヶ月ルール後の再入所の可能性はある?
特養の3ヶ月ルールで退所になった後でも、同じ特養に再入所することは可能です。
特養の運営規則には再入所の制限に関する取り決めはありません。
ただし、再度入所申し込みをする必要があり、以前入所していたからといって優先的に入所できるわけではありません。
入所の順番が回ってくるまで待つ必要があります。
入院中の特養の費用負担は?
入院中であっても、退院後に施設に戻れるよう契約を続ける場合は、原則として特養の費用を払う必要があります。
ただし、介護サービス費や食費は発生せず「居住費」のみの支払いとなります。
入院して6日間は外泊時の費用として1日246単位が費用負担となり、それ以降は通常の居住費が必要になります。
3ヶ月以内の退院と再入院の扱いの違いは?
特養の3ヶ月ルール期間内に1度退院し特養に戻った場合、その時点で介護保険上の在籍場所がリセットされ、再入院時は新たに3ヶ月の入院期間が設けられます。
例えば、2ヶ月入院した後施設に戻り、3日後に再入院した場合、最初の2ヶ月の入院期間はリセットされ、再入院した時点から新たに3ヶ月の猶予期間が始まります。
入院直後の退所勧告を受けることはある?
特養の3ヶ月ルールは、3ヶ月で退院できる見込みがない場合も契約解除が可能となっています。
医師の判断により3ヶ月以内の退院が難しいと診断された場合、入院後1週間程度でも退所勧告を受ける可能性があります。
ただし、予想より回復が早く3ヶ月以内に退院できる場合もあるため、そのような際は入所していた特養に再入所の可能性を相談してみることをお勧めします。
特養で3ヶ月ルールによる退所勧告を受けた場合の対応
特養で3ヶ月ルールにより退所勧告を受けた場合、以下の対応を取ることが重要です。
- 地域の相談窓口の活用方法
- 3ヶ月ルール適用後のその他の施設
地域の相談窓口の活用方法
特養で3ヶ月ルールにより退所勧告を受けたらまず、以下のような窓口に相談することをおすすめします。
- 地域包括支援センター
- 市区町村の福祉担当窓口
- 担当のケアマネジャー
施設側の過失による入院の場合、退所にならないよう施設に直接働きかけてくれる可能性があります。
また、退所が避けられない場合でも、次の施設探しや施設入所までの生活をサポートしてくれます。
予算内の施設や必要な医療行為が受けられる施設など、入所者の希望に沿った暮らしができるよう支援してくれるでしょう。
特養の3ヶ月ルール適用後のその他の施設
退所が避けられない場合は、早めに他の施設を探し始めることが重要です。
特養退所後の施設候補としては、以下のようなものが挙げられます。
- 特養(特別養護老人ホーム)
- 介護医療院
- ケアハウス(介護型)
- 介護付き有料老人ホーム
特養(特別養護老人ホーム)
別の特養に入所するという選択肢もあります。
特養は介護サービスが充実し、月額費用も比較的抑えられる公的な介護施設です。
24時間体制の介護サービスや看取りケアにも対応している点が魅力です。
ただし、入所希望者が多いため、入所待機期間が長期化する傾向があります。
すぐに入所したい場合は、都心から離れた場所にある特養や、個室型のユニット型特養を検討するとよいでしょう。
ユニット型は多床室よりも費用は高くなりますが、プライバシーが保たれ、個別ケアを受けやすいというメリットがあります。
また、特養によっては短期入所(ショートステイ)を利用しながら待機することも可能です。
入所後も定期的に状態確認を行い、長期入院のリスクを減らす努力が必要です。
介護医療院
介護医療院は、介護サービスと医療サービスの両方を受けられる施設です。
特養と比べて医療体制が充実しており、日常的に医療行為が必要な高齢者でも入所可能です。
24時間体制で医師や看護師が常駐し、人工呼吸器や胃ろうなどの医療処置にも対応しています。
また、リハビリテーションにも力を入れており、身体機能の維持・改善を目指すことができます。
看取りケアにも対応しているため、終の棲家として検討する価値があります。
ただし、医療サービスが充実している分、特養よりも費用が高くなる傾向があります。
介護保険と医療保険の両方を利用するため、費用構造が複雑になることもあるので、事前に詳細な説明を受けることをおすすめします。
ケアハウス(介護型)
ケアハウスは自立した生活が困難な高齢者を対象とした施設です。
介護型のケアハウスは要介護5の方まで対応している施設もあり、幅広い介護度の方が入居可能です。
居室は基本的に個室で、共用スペースでは他の入居者との交流を楽しむこともできます。
さらに食事の提供や生活相談員によるサポートなど、日常生活全般のサービスが受けられます。
ただし、個室タイプが中心のため特養よりも費用が高くなる傾向があります。
また、医療面でのサポートは特養や介護医療院ほど充実していない場合が多く、看取りに対応している施設も少ないため、将来的な医療ニーズの変化も考慮に入れる必要があります。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、24時間体制で介護サービスを提供する民間の施設です。
特養と比べると費用は高くなりますが、介護サービスが充実しています。
また、個室が基本で、中には広々とした居室や高級感のある設備を備えた施設もあります。
食事や入浴、排せつなどの日常生活全般の介助に加え、機能訓練や余暇活動のサポートなど、きめ細かいサービスを受けられることが多いです。
病院に併設されている場合は看取りケアにも対応していることが多く、終の棲家としても検討できます。
また、夫婦での入居が可能な施設も多いため、配偶者と一緒に暮らし続けたい方にも適しています。
ただし、費用面では特養よりも高額になることが多いため、長期的な資金計画を立てる必要があります。
入居前には、契約内容や将来的な費用の変動可能性などについて、十分に確認することが重要です。
まとめ:特養の3ヶ月ルールへの対処法
特養の3ヶ月ルールは、長期入院時の退所基準として重要な規定です。
この規則を理解し、適切に対応することが、安定した介護生活を送るために不可欠です。
退所勧告を受けた場合は、地域の相談窓口を活用し、新たな入所先を早急に探すことが重要です。
特養以外にも、介護医療院やケアハウス、介護付き有料老人ホームなど、様々な選択肢があります。
それぞれの施設の特徴や費用を十分に検討し、入居者の状態や希望に最も適した施設を選ぶことが大切です。
また、入所前に特養の3ヶ月ルールについて施設に確認し、長期入院のリスクや対応策を家族で話し合っておくことをお勧めします。