日本の高齢化が進む中、老人ホームの重要性が高まっています。
しかし、「老人ホームが不足している」という声をよく耳にします。
実際のところ、老人ホームの状況はどうなっているのでしょうか。
施設数は足りているのに入所が難しい理由や様々な種類の老人ホームの特徴について詳しく見ていきます。
また、入所条件の違いや選び方のポイントなど、老人ホームを取り巻く現状と対策を解説します。
老人ホームが不足している理由
老人ホームが不足しているという認識の背景には、以下の要因があります。
- 介護職員の離職率と人材不足
- 新規入職者の定着率が低い
それぞれの要因について、詳しく見ていきましょう。
介護職員の離職率と人材不足
介護職員の離職率は、老人ホームが不足していると感じられる主な要因の一つです。
厚生労働省の調査によると、2019年度の介護職の離職率は15.4%でした。
一般産業の離職率15.6%と比較すると大きな差はありませんが、介護分野では慢性的な人材不足が続いています。
人材が不足すると、施設の受け入れ体制が整わず、入所を断るケースが増えてしまいます。
新規入職者の定着率が低い
新規入職者の定着率が低いことも、老人ホームの人材不足に拍車をかけています。
同じ厚生労働省の調査によると、離職した介護職員の約64%が勤続年数の浅い職員でした。
新人教育にコストをかけても、すぐに離職してしまうため、安定した人材確保が難しくなっています。
介護職の離職理由としては、以下が上位に挙がっています。
- 「職場の人間関係」
- 「他に良い仕事が見つかった」
- 「法人や施設の理念や運営のあり方に不満」
離職問題を解決するためには、職場環境の改善やキャリアパスの明確化、待遇の向上などが必要不可欠です。
高齢化社会における老人ホームの重要性と現状
高齢化社会において、老人ホームは重要な役割を果たしています。
現状を理解するために、以下の点を見ていきましょう。
- 日本の高齢化率の推移と将来予測
- 老人ホームの施設数と入所状況
具体的なデータを交えながら解説します。
日本の高齢化率の推移と将来予測
厚生労働省の発表によると、2065年には高齢化率が38%台に達すると予測されています。
高齢者人口の増加に伴い、介護や医療のニーズも高まることが予想され、老人ホームの重要性はますます大きくなっていくでしょう。
具体的な数字を見てみると、2020年の高齢化率は28.8%でしたが、2025年には30.0%、2040年には35.3%に達すると予測されています。
特に75歳以上の後期高齢者の増加が顕著で、2025年には全人口の18.1%を占めるとされています。
急速な高齢化に対応するため、老人ホームの整備や在宅介護サービスの充実が急務となっています。
老人ホームの施設数と入所状況
老人ホームの施設数と入所状況は、不足感とは裏腹に余裕がある状態です。
厚生労働省の「令和2年社会福祉施設等調査の概況」によると、全国の老人福祉施設と有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅以外)を合わせた施設数は21,184軒となっています。
老人福祉施設の在所率は91.4%、有料老人ホームの在所率は86.8%で、いずれも定員に余裕がある状態です。つまり、施設数自体は不足していないといえます。
しかし、地域によって施設の充足状況には差があります。
都市部では用地確保の難しさから施設が不足気味である一方、地方では施設は充実しているものの、入居者の確保に苦労しているケースもあります。
地域差や施設種別による差も、「老人ホームが不足している」という認識につながっている可能性があります。
老人ホームの種類と入所条件の違い
老人ホームには様々な種類があり、それぞれ入所条件が異なります。主な種類は以下の通りです。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護医療院
- 介護老人保健施設
- 有料老人ホーム
それぞれの施設の特徴と入所条件について、詳しく解説していきます。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
介護老人福祉施設は、特別養護老人ホームとも呼ばれる公的な福祉施設です。
入所条件は原則として要介護3以上の高齢者に限られますが、認知症や虐待のリスクがある場合など、特別な事情がある場合は例外的に入所が認められることがあります。
ただし、入所までの待機期間が長いことが課題となっています。
待機者の多さは、「老人ホームが不足している」という印象を強める一因となっています。
介護医療院
介護医療院は、2018年4月に新設された施設で、介護と医療の両方を提供しています。
入所の対象は要介護1以上で医療ニーズの高い高齢者にとって、適切なケアを受けられる選択肢となっています。
従来の介護療養型医療施設や医療療養病床からの転換を促進するために設けられた施設であり、今後さらに増加していくことが予想されます。
介護老人保健施設
介護老人保健施設は、リハビリテーションを通じて自宅への復帰を目指す施設です。
入所条件は要介護1以上で、自宅に戻ることが目標のため、リハビリの成果が出て自宅復帰の目処が立った場合は退所することになります。
通常、入所期間は3〜6ヶ月程度とされていますが、状況に応じて延長することも可能です。
有料老人ホーム
有料老人ホームは、民間が運営する施設で、さらに以下のように分類されます。
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
各施設によって入所条件が異なり、要介護認定を受けていなくても入所できる施設もあります。
有料老人ホームの大きな特徴は、入居者のニーズに合わせた多様なサービスを提供していることです。
ただし、費用面では公的施設よりも高額になる傾向があるため、長期的な資金計画が必要です。
老人ホームへの入所が難しい場合の対応策
老人ホームへの入所が難しい場合、以下の対応策が考えられます。
- 地域包括支援センターの活用方法
- 有料老人ホームを選択肢に入れる
対応策について、具体的な方法と利点を解説します。
地域包括支援センターの活用方法
地域包括支援センターの活用は、老人ホーム入所の難しさを解決する一つの方法です。
地域包括支援センターは各自治体に設置された高齢者向けの相談窓口で、社会福祉士やケアマネージャーなどの専門家が在籍しています。
センターでは、個々の状況に応じたケアプランを設計してくれるため、自分に適した施設を見つけやすくなります。
また、地域の介護サービスや施設に関する幅広い情報を得られるので、選択肢を広げることができます。
有料老人ホームを選択肢に入れる
有料老人ホームを選択肢に入れることで、入所の可能性が広がります。
有料老人ホームは施設ごとに入所条件が異なり、中には要介護認定を必要としない施設もあります。
ただし、費用面での検討が必要になるため、事前に十分な情報収集と家族での話し合いが重要です。
老人ホーム選びのポイント
老人ホームを選ぶ際は、以下のポイントに注意しましょう。
- ニーズに合った施設を探す
- 見学や体験入居をしてみる
それぞれのポイントについて、具体的な方法と注意点を詳しく説明します。
ニーズに合った施設を探す
ニーズに合った施設を探すことは、満足度の高い老人ホーム生活を送るために重要です。
入居者本人の健康状態や介護度、生活習慣、趣味などを考慮し、それらに適した施設を選ぶことが大切です。
また、家族の面会のしやすさや、医療機関との連携状況なども重要な選択基準となります。
施設の特徴や提供されるサービス内容を細かく確認し、入居者と家族のニーズに最も合致する施設を選びましょう。
見学や体験入居をしてみる
見学や体験入居は、老人ホームの雰囲気や実際の生活を知る上で非常に有効です。
施設の設備や環境、スタッフの対応、他の入居者との交流など、実際に体験することで得られる情報は多くあります。
可能であれば複数の施設を見学し、比較検討することをおすすめします。
また、短期間の体験入居を利用すれば、より具体的に生活のイメージをつかむことができます。
見学や体験入居を通じて、入居者本人が快適に過ごせるかどうかを慎重に判断しましょう。
まとめ
老人ホームが不足しているという認識は、必ずしも施設数の不足を意味しているわけではありません。
介護職員の人材不足や、施設の種類による入所条件の違いが、入所の難しさにつながっています。
また、個々のニーズに合った施設を慎重に選ぶことで、満足度の高い老後生活を送ることができます。
高齢化社会が進む中、老人ホームの役割はますます重要になっていきます。
適切な情報収集と準備を行い、自分や家族に最適な選択をすることが大切です。